PISA2009の発表があった。今回、日本は読解力が上がり、回復傾向を示した。ただはたしてこれでいいのか。学力問題にかかわってきた経緯から、コメントしておきたい。
今回の結果は、だいたい予想通りだった。では、私が予想した根拠はどこにあるか。
それは、教科書である。教科書は、その国の指導要領によって決まってくるが、これを見るとその国の教育に対する考えやレベルが見えてくる。しかし、不思議なことに日本では、そのことに誰も触れない。教科書や指導要領は、国によって大きく違う。国際学力テストは同じ問題をやっているが、世界の子どもの学習は、大きく違っているのである。ここを知らないで、単純に順位が注目されるのは、重要な判断を誤るもとであると私は感じている。
では、教科書や指導要領をポイントにおいて、今回の結果の評価を三点指摘したい。
第一は、理数の回復が遅れている点だ。なぜ理数の回復が遅れているか。それは、日本の指導要領は今もって、ゆとり教育の2002年のものを使っているからだ。いかに現場で指導を工夫しようとも、教科書のレベルが低い以上、学力の向上に限界があるのは明らかだ。そもそも、日本の算数の指導要領は良くできていた。それが、第一回の国際学力テスト数学1位の土台になっていたと私は思う。しかし、今年のものは、まだ低いレベルのままだ。
ただ、来年度からの算数や数学の学習内容は、かなり以前に近いものになっているし、指導に関しても国際標準のものに近付いている。きっと、数学の次回の成績はもっとはっきり回復してくると思っている。
問題は科学だ。今回の学力低下批判の中では、あまり理科の指導には注目が集まらなかった。そのため、理科の指導要領の改善は、私から見て不十分だ。生活科を縮減し、低学年理科を復活させ、物理や化学分野を充実させるなど、理科全体の教育課程を早急に抜本的に改革する必要がある。それがなければ、次回の国際学力テストでは、数学や読解の成績が改善しても、科学分野が遅れることになると思う。
第二は、読解力の向上である。この数年、日本は自分の考えをまとめるような指導にもっとも力を入れてきた。その成果が、現れたのである。ただ、もともと国際学力テストの読解力テストの内容は、日本の国語学習とはずいぶん違ったものだった。また、国語の指導要領は、もともと拘束がゆるい。対策は比較的とりやすい環境だった。また新しい指導要領は、この流れを加速させる内容になっている。次回もさらに順位が向上していく余地は大きい。
第三は、上海の好成績である。これまで何か所かの講演で、私は、もし中国の上海や北京がこの国際学力テストに参加してくれば、ぶっちぎりで第一位だろう言ったことがある。そしてその通りになった。私がそう予想した根拠は、上海の教科書がもっとも高度でよくできていたからである。
これは私の推測だが、上海は日本の教育の研究をかなり行ったのではないか。上海の教科書を見ていると、私たちの子どものころのものに似ているが、実にうまく構成されていた。
いずれにせよ、学力低下の流れはようやく止まった。NHKがこの報道にとき、早寝早起き朝ごはんなどの生活習慣も重要ですねとコメントしていた。やはりがんばってよかったと思う。
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